小学校の英語教育の現状とその問題点について
英語教育は、幼いうちから始めるほうが覚えがいいので、日本でも小学生から英語教育を行うことになりました。しかし、実際に小学生に英語を教えるとなると、学校でも初めてのことなので、戸惑うことが多いようです。
そもそも、小学校の先生は英語教育に慣れていない上に、中学校と違って、担任の先生が英語を教えなければなりません。小学校の英語教育の現状はどうなっているのか、またどこに問題があるのか見ていきましょう。
小学校の英語教育導入は子どもにどう影響する?
日本社会には、大きなグローバル化の波が押し寄せています。これからの日本経済を担う若者は、英語力を身につけないと、仕事ができない時代がそこまできています。
これまでの日本の英語教育は、中学から始まる文法中心の英語でした。文法を中心にすると、英語の読み書きはできても、英会話はほとんどできないことになります。また、日本では中学から大学まで、10年間も英語を学ぶのに、英会話はもちろん、ほとんどの人が読み書きさえもできないという現実があります。こうなった理由の1つが、「英語を学ばせるのが中学からでは遅すぎる」ということです。
英語に限らず、語学を学ぶのは早ければ早いほどいいと言われているので、遅まきながら日本でも、小学校から英語教育を導入することに決めました。しかし、実際に英語を学ぶ子どもには、早期の英語教育はどのような影響を与えるのでしょうか。
小学生のうちから英語を学ばせれば、英語のバイリンガルを大量に排出できるというのが、文科省の目論見なのでしょう。しかし、一方で早期の英語教育は、子どもの発達に悪影響を及ぼすという見解もあります。つまり、小学校の英語教育がスタートしないうちから、意見が2つに分かれているのです。
もちろん、早期に英語教育を受けることは、子どもにとって大きなメリットがあります。その1つが、人生の選択肢が増えることです。早いうちから英語に触れることにより、これまで以上に英語力のある若者が大量に輩出されれば、選べる仕事の選択肢が増えることになります。
外資系の企業に就職することも可能になるし、海外に出て活躍することもできるでしょう。仕事で情報を収集する場合、現在はネットを使うことが多いのですが、情報の内容によっては、海外の論文などを検索する必要も出てきます。この場合、英語ができなければ、その論文が和訳されるのを待つしかありませんが、英語がわかれば原文のまま読んで内容を理解することができます。このように、英語ができるようになると、必要な情報を迅速に入手できるようになるのです。
早期の英語教育にはこういったメリットもある反面、「まだ日本語を十分に理解できないうちから、英語を覚えさせても大丈夫なのか」という意見もあります。こういった懸念については、残念ながら「やってみないとわからない」という答えしかないのが現状なのです。ハイレベルな英語力を身につけるには、「英語脳」と「英語耳」を養うことが大切とされています。そのためには早期に英語を学ばせる必要があり、文科省もそちらに舵を切ったわけですが、この結果が吉と出るか凶と出るかは、10年後、20年後まで待つしかありません。
英語教育以外に日本に欠けているもの
世界の国々を見ると、多くの民族が集まって、1つの国家を形成している国が多いことがわかります。インドやフィリピンなどは、数多くの民族がそれぞれ別の言語を使うので、意思疎通ができない問題を解消するために、公用語として英語を導入しました。
もともと英語圏ではなかった国で、英語を公用語にしている国には、多かれ少なかれ同様の問題が存在しています。つまり、他民族国家であるがゆえに、公用語としての英語が必要だったのです。
これに対して日本は、ほとんど1つの民族だけで成り立っていると言っても、差し支えないでしょう。このため、日本は日本語だけで十分だったので、英語を公用語として使う必要がありませんでした。
1つの国家に多くの民族が暮らしていれば、さまざまな面でトラブルが起きますが、幸いなことに日本では、そのような問題はほとんど起きませんでした。その点ではよかったのですが、21世紀になってグローバル化の波が押し寄せる時代になると、英語を公用語としている国々から、大きく差をつけられるようになりました。
それは、日本人が英語を話せないことだけにとどまりません。これまで他民族との接触がほとんどなかったため、日本人全体が異文化との交流に不慣れなのです。つまり、それぞれの国や民族に、固有の価値観や考え方があるということが、日本人にはなかなか理解できないのです。
しかし、小学校から英語教育を導入することによって、こういった日本が持つ「弊害」も、徐々に解消していくことでしょう。
早期英語教育によって広がる学力格差
現在、日本の英語レベルは、世界的に見ても決して高いとは言えません。先進国はもちろん、開発途上国と比べても低いのです。
この状況を改善するために、日本では小学校から、英語教育を導入することに決めたわけですが、それは2020年の英語教育改革に端を発しています。これまで、小学校5~6年生が受けていた「外国語活動」が、小学校3~4年生から始まり、5~6年生は外国語強化として、正式に英語を学ぶことになったのです。
これに加えて、中学と高校では英語の授業が英語で行われるようになり、必修単語数も増えることになります。つまり、小学校から高校まで、授業の中で英語が占める比重が、かなり増えることになったのです。
こういう状況になると、英語が得意な生徒はいいのですが、反対に英語が苦手な生徒にとっては大きな負担となり、場合によっては授業についていけず、取り残される可能性もあります。いわゆる、「落ちこぼれ」が増えるおそれがあるのです。つまり、英語ができないだけで、自分はダメな人間だと思ってしまう生徒が、今後出てくるかもしれないのです。
小学生のうちから、このような挫折感を味わうことが、その生徒の将来に悪影響を及ぼすのは言うまでもないでしょう。また、文科省が英語教育に力を入れると、保護者も子どもを英会話教師に通わせたり、オンライン英会話を習わせるようになります。そうなると、英語が苦手な生徒の負担はますます重くなってしまいます。
さらに、英会話教室に通うには費用がかかるので、その費用を捻出できない家庭も出てくるでしょう。そうなると、生徒間で親の経済力の違いによって、学力格差が生まれることになります。どんな種類の格差であっても、格差のある社会は良い社会とは言えません。しかし、小学校からの早期英語教育導入により、こうして新たな格差が生まれようとしています。
このような課題がある中で、とにかく2020年から、新たな英語教育がスタートしました。国民は国が決めた事には従うしかありません。しかし、国の決定はグローバル化を見据えたものなので、これからの時代には英語強化は必須であることも事実です。とはいっても、すでに英語の早期教育による、問題が浮かび上がっているのですから、文科省には早めの対応を期待したいところです。特に、英語教育による「格差」は、社会に大きな歪を生むおそれがあるので慎重な対応が必要です。
まとめ
文科省は、世界のグローバル化を見据えて、日本の英語教育を改革しました。その結果、小学校からの早期英語教育導入が決まったのですが、すでにいくつかの課題が浮上しています。特に英語の早期教育による格差の問題は深刻で、日本の将来に暗い影を落とすおそれもあります。そのため、これからは問題点を改善しながら、小学校の英語教育を進めていく必要がありそうです。